意見陳述

第14回口頭弁論 榊原 郁子

第1次原告の榊原郁子です。北海道教育大学の元教員で、化学と理科教育を担当していました。福島原発事故以後は、放射能の基礎を学ぶテキストをつくっています。その中で、核エネルギーを発電に利用してはいけないという思いを深め、道民として泊原子力発電所を廃炉にしたいと思っています。

1. 原子と化学エネルギー

化学では、物質の性質とその変化を学びます。全ての物質は、約100種類の原子がいろいろな組み合わせで結合したものです。私たちは、昔から木や石炭・石油などを燃やして暮らしてきました。

燃料に含まれる原子と酸素原子が結合すると化学エネルギーが発生します。これは、誰でも扱えるエネルギーです。

2. ウラン原子の核分裂と原子核エネルギー

原子炉では、燃料であるウラン原子の原子核が分裂してエネルギーが発生します。原子核の変化によるので、核エネルギーといいます。石炭や石油を燃やしたときに発生する化学エネルギーとは、比較にならないほど大量のエネルギーが発生します。核エネルギーを利用する原子爆弾は、全てのウラン原子が一瞬のうちに核分裂します。広島や長崎で経験したように、多くの人々の命を奪い、町を破壊します。

原子炉では、ウラン原子の核分裂が少しずつ起きるように制御されていますが、何らかの原因で制御できなくなると、爆発します。

3. ウラン原子の核分裂生成物

ウラン原子が核分裂すると、放射線を出す能力(放射能)を持った原子が出来ます。ウランの原子核は2つに分かれますが、分かれ方はいろいろあるので、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムなど、30種類ほどの原子ができます。

原子炉を稼働させると、ウラン原子は核分裂して減りますが、強い放射能を持った原子が増えます。これらが使用済み核燃料の中味です。

原子炉で事故が起きて、これらの放射能を持った原子が外界に出ると大変ですが、事故が起きなくても使用済み核燃料は大きな問題を持っています。

1つは、放射能を持っている原子は、放射線を出すと放射能がない原子になりますが、人間の手で放射能がない原子にすることはできないこと。

さらに、放射能がある原子の集団からは放射線が出続けることです。これは、人間が今まで経験したことのない不思議な現象です。

4. 放射線被曝の影響を心配する人

福島原発電事故では、広い地域に放射能を持つ原子が運ばれ、今でも地面や草木に降り積もって放射線を出し続けています。放射能汚染地域に住む子どもの健康を心配する人たちが、放射能の専門家に「避難するべきか、住み続けていいのか?」と質問するのを幾度も耳にしました。専門家は「どちらが良いか、私にはお答えできません。申し訳ないけれど、あなたの条件をよく考えて、ご自分で結論を出して下さい」と答えていました。

放射能のことが判らないから避難するかどうか決められず、不安と心配に苦しむ人たち、そして、最近では避難した人たちに、除染して放射線量は減ったから戻れという圧力がかかっています。

「放射能のことを少し勉強したら、自分で判断できるのではないか」と思いテキストつくりをしています。

しかし、放射能に関する知識を体が拒否して受けつけない人にも出会ってきました。原子でさえ良くわからない、自分とは別世界のものと考える人も多いのが現実で、原子より更に馴染みの少ない原子核の世界・放射能を理解するのはむずかしいです。

しかし、原発の事故が起きれば、被曝する誰にでも各自の判断が求められます。そのような状況に置かれて、自分で判断出来ないことに戸惑い、ストレスをかかえて苦しむ人を、これ以上増やしてはならないと思います。

5. 原子核エネルギー無しの暮らし

福島原発事故では、原子力発電を推進して来た東京電力や国の責任者の姿が、テレビや新聞にさらされました。日本で最も高い「能力」と「知性」を持つ人たちです。日本の原発では、絶対に事故など起きないと信じ、人々を説得して来た人たちですが、事故にうろたえ、何も出来ずに責任のがれをしていました。

その姿を見て、私は人間の能力を過信していたと考えずにはいられませんでした。人間は、原子力という巨大なエネルギーを扱えるほど賢くもないし、高い能力も持っていないのです。

核エネルギーに頼らないで、つつましく暮らしたいと思います。