意見陳述

第15回口頭弁論 上野 白湖

原告:上野 白湖(うえの あきこ)

原発反対の30年

私は上野白湖と申します。過去30年足らずの間、反原発関係の活動に携わって参りました。現在有珠郡壮瞥町に退職後20年余り住んでおり、泊原発の半径60㎞の位置にあります。活動としては、ささやかながら「非戦いぶり」という学習体を主催し、会報を「非戦」と名付け2ヶ月に1回発行し、60号を終えました。またやむにやまれず3・11が起きて間もなく仲間と共に反原発金曜日デモを月2回、声をみんなで挙げ、現在に続いています。

廃炉の会には発足当時から関わり、多くの友達や知り合いも誘ってきました。また、もっと広い世界で多くの皆さまの後を追い、連帯のひとかけらとして参加し、地元の仲間にも伝える役割を担う必要があり、この場に立つことに致しました。その意をお汲み取り下さい。

約40年前、第3の火という希望に彩られて原発はデビューしました。無知だった当時の私は、人間の素晴らしさに、ときめきさえ覚えたものです。

しかし、90年代に初めて、その恐ろしさと犯罪性を知りました。恥ずかしいことです。それだけに後悔と恥と怒りを叩き付けたい思いが募ってまいります。原子力有用論は成り立たちません。原子力・原発は弱者を平気で犠牲にする、ということに尽きます。

政府・電力会社の責任は重い

原発廃炉の願いは、経済問題や環境問題もさることながら、命の問題に他なりません。3・11の福島原発の激甚事故がそのことを明らかにしました。それまで政府や電力会社は「原発は絶対に事故を起こさない」と言い、いわゆる「安全神話」をでっち上げ、国民を操ってきました。一歩誤れば重大事故といわれるものが何度も起きては隠蔽されたり言い換えられたりしてきたのにです。3・11のフクシマ事故によって、その嘘が白日の下に晒されました。日本は世界有数の火山国であり、活断層が原発のすぐそばどころか、敷地内からも発見されているのが現実です。多くの権威ある科学者からの、たびたびの警告にも耳をかさず、驚いたことに3・11の事故後でさえ改めようとしない政府や電力会社の責任は重大です。

以下に私の反原発の要点を5項目に整理して申し上げます。  

1. 内部被曝

3・11の事故後、子どもたちには、日を追うごとに内部被曝による甲状腺ガンとその転移などによる危険性が増大しています。福島県の調査によれば、2011年から3年間で計30万1707人の18歳以下の子どもの検診結果は、甲状腺ガン87人、疑いのある子ども30人、合計117人でそのうち87人はすでに甲状腺の切除手術を受けています。疑いのある子どものうち細胞の組織検査を終えて問題が見つかった28人を合わせると、115人の発症となっています。この年齢層では過去35年間の統計では10万人あたりの発症率は年間0.175人に過ぎず、福島の発症率はその72.6倍にもなります。

2. 被曝労働者

原発は、常時、労働者に被曝を強いるものです。これはある被ばく労働者例です。
「悲惨極まりない非道な実態がありました。原発被曝労働は、まさに使い捨てのボロ雑巾のような仕事であり、それも下請け・孫請けなどはまだマシで、ひ孫請けのそのまた何次もの下請け構造があり、下層にいくほど命を削る仕事が待っている。さらに現場の状況は、放射線バッジを外して働くハメとなっている。つまり、まともにバッジを着けているとすぐにブザーが鳴ってしまい、そうすると「ああ、お前は明日からもう来なくてもいいから」ということになる。それでバッジを外し高温多湿の現場で死にそうな仕事をやらされる。もしガンになっても放射線との因果関係は証明されず労災が降りることはない。蒸し暑さでマスクもゴーグルも外さざるを得ず、ガンの恐怖にさらされ続ける。

私達は、生きとし生けるものとして、人の命を犠牲にして生き延びるべきではありません。現在原発は殆ど機能してはいません。必要がないものを維持するのは他に目的があるからでしょう。

3. 地球と生命

原発は環境汚染をもたらし、それが地球と生物の存続を危うくしています。
原発は原子炉を冷やし続けるために海水を大量に汲み出し、もとの水温より7℃も高い温排水を海に流します。これによって多くの魚やプランクトン・卵や海藻も影響を受けます。温排水は、海面の水温を上げ、地球温暖化をもたらし、海洋の生態系を破壊しています。
                        
漁業者は、魚や貝が取れなくなって地域は衰退し、村のあり方を変える程深刻な状況が伝えられています。
また、原発の煙突からは、つねに微量の放射線が放出されています。それが雨に混じって降り注ぎ、子ども達の免疫細胞を破壊し、遺伝子を傷つけているのです。

4. 核ゴミ

原発の核ゴミは膨大にもかかわらず、処理のメドは、まったくついていません。唯一六カ所の再処理工場が造られましたが、稼働の見通しがない中で、保管場所は満杯に等しいのに、どの地域でも危険な核ゴミの受け入れは避けています。
現在、非公式に打診されている地域がありますが、そこには深刻な闘いがあります。

5. 原爆の原料

最後に、原発から生み出されるプルトニウムは、本来、原爆をつくるためのものでした。長崎の原爆は、アメリカの原子炉でつくられ、プルトニウムの効果を試すモルモットにされたのが長崎の犠牲者です。それは70年を経た現在も決して過去のものとはなり得ないのです。
                 
そんなものを燃料として再利用するプルサーマル計画に、ばく大な税金を使い、大事故を起こし、実現の見通しどころか実態も明らかにされてはいません。プルトニウムを貯め込むことは、いつでも日本の核武装への転用を容易にし、原子力規制委員会の項目に安全保障が加えられた今日においては戦争への道を開く危険もあります。大荒れの国会審議や、ごまかしと横暴の採決を見ると、いっそう危惧は深まります。武器作りにも資する原発は、直ちに廃炉にすべきです。速やかに核燃料を撤去し国民の安らかな暮らしを保障するのが政府、国家の義務だと主張します。   
           
裁判長、どうぞよろしくお願いいたします。