
1. 原発関連問題との出会い
私はかつて勤務の関係から、稚内にほど近い幌延町に住んでいたことがあります。そのとき、1984年4月21日でしたが、北海道新聞に衝撃的な記事が掲載されました。「幌延に高レベル廃棄物施設/動燃が計画/・・・」という見出しで始まる一面トップ記事です。幌延問題はその数年前からの前史がありますが、この新聞報道を境に動燃(動力炉・核燃料開発事業団)の問題へとかわり、その後、実施運営主体の変遷を経て、今日も執拗に続く幌延問題へとつながっています。このとき以降私は核廃棄物問題さらに原発問題を自分なりに勉強して、核のエネルギー利用は直ちにやめるべきという立場に立っています。
なお、私が実感した動燃の組織的特徴は非常に狡猾であり、平然として地方自治を踏みにじる横暴さを持っている、などです。この基本性格は他の原発や原発関連の諸組織にそのまま当てはまると感じています。
2. 北電の泊原発用地取得問題
上記新聞報道の興奮冷めやらぬ同じ1984年5月13日、やはり道新の一面トップで、「『泊原発』用地買収に疑惑」「東京の業者8億円で取得」「北電に1.8億円で転売」「農地など八ヘクタール 差額だれが負担」という大きな見出しと記事が報道されました。翌5月14日の道新はこれまた一面トップで、「泊原発の用地買収疑惑」「大成建設が関与か」「仲介工作 差額肩代わりも?」と伝えています。この疑惑についてはその後、参議院議員の小笠原貞子氏(共産党)が同年6月25日に同院決算委員会、同年8月1日に同院エネルギー対策特別委員会で、証拠を示して具体的な内容の質問をしました。道議会では大橋晃氏(共産党)が、同年7月23日の第2回定例会で横路孝弘知事に質問しています。
この問題には多くの人や組織が介在して、実態はなかなか複雑ですが、新聞報道と議会質問を総合すると概略は次のとおりです。つまり、北電は泊原発用地(全体で128ha、うち買収対象は107ha)の取得に苦労していた、そのうちの一つ「堀株(ほりかっぷ)農園」の所有地8haの取得が特に難題だった。経営が行き詰まっていた堀株農園は北電に16億円の超高値を示したのち約8億円で売ることになった。しかし北電は堀株農園から1.8億円で購入したと国土利用計画法に基づいて北海道に届け出た。では差額の6.2億円は誰が堀株農園に支払ったのか、それは大成建設である。ここに北電は国土利用計画法に違反したことになる。堀株農園への差額を補填した大成建設には北電から原発の施設建設に関する大きな事業が発注されている、という構図になります。
私が今日、上記日付などの新聞報道と議会議事録を読んで実態を判断するところ、堀株農園の土地購入に関する北電の行為は歴史に残る汚点です。
3. 北電の「やらせ」
東電の福島第一原発が究極の大事故を起こした2011年に、初夏から夏にかけて九州電力、中部電力、北電などの「やらせ」が次々と明るみに出て、重大な社会問題になりました。北電の場合、泊原発3号機のプルサーマル計画に関する2008年のシンポジウムで「やらせ」を行ったというもので、北電はこの事実を認めました。
当時、私は北大教職員組合委員長でした。そのとき北電会長であり道経連会長だった近藤龍夫氏が北大経営協議会委員でした。経営協議会とは国立大学法人法に基づいて設置され、国立大学法人の経営に関する重要事項を審議します。その議長は学長です。委員は学長が指名する学内者と学長が任命する学外者(委員総数の2分の1以上)からなります。北大の場合、委員総数は20人前後です。
私は、反社会的行為の「やらせ」を行った北電の責任者である近藤氏が北大の経営協議会委員であるのは、これまた反社会的であると判断しました。そこで佐伯浩北大学長に北大職組の名前で2011年の夏から秋にかけて3回、近藤氏を経営協議会委員から解任すべしと文書で申し入れました。また、それとは別に2回、経営協議会委員全員と学内の各役職者らにあてて、近藤氏の解任を佐伯学長に働きかけるよう、やはり北大職組名の申し入れ文書を送付しました。後者の2回の文書は近藤氏自身にも届いたはずです。しかし佐伯学長は近藤氏を解任せず、他方、近藤氏は辞任しませんでした。それどころか佐伯学長は、同年9月、私を含む北大職組の代表数人が学長室で会見したとき、経営協議会委員は実質的に自分が選んだのではないから近藤氏を解任できないと無責任な態度を示しました。この一連の経過には、「やらせ」問題の重大さを全く理解しない佐伯学長の能天気ぶりと、世論を無視する近藤氏のごう慢な姿勢が良くあらわれています。
4. 終わりに
上の「2」、「3」に述べた事態からは、北電が泊原発に関して社会秩序に反する行為を働いた。しかし北電はその事実を何とも思わない反民主主義の性格を濃厚に持っている、ということがわかります。このような北電の態度は、かつて私が抱いた原発とその関連組織の基本的特徴そのものです。もしも北電が、上記二つの歴史的汚点を「道民はすでに忘れている」と考えているのであれば、それは大間違いです。私のように、いつまで経っても忘れない人間がいます。かくなるうえは、泊原発の再稼働を行わないのはもちろんのこと、この裁判で提起しているように、泊原発そのものを即刻廃炉にする以外に北電が道民の信頼を回復する道はありません。
裁判官におかれては、少なくとも私が述べた北電の歴史的汚点二つを十分に踏まえて、泊原発を廃炉に導く結論を出していただきたいと要請します。