意見陳述

第19回口頭弁論 蔵田 伸雄

原告 蔵田 伸雄

蔵田伸雄と申します。北海道大学で倫理学や科学技術倫理、生命倫理等を教えています。今日は原告の一人として、私が泊原子力発電所を廃炉にするべきだと考える理由を述べさせていただきます。

北海道電力という企業

現在、福島第一原子力発電所の事故などまるでなかったかのように、泊原子力発電所の再稼働に向けた準備が進められています。しかしそれに対しては強い不安と憤りを感じています。そもそも北海道電力という企業に、原子力発電所を責任をもってコントロールできるだけの十分な能力があるとは思えません。

9月18日に開催された、北海道電力による泊原子力発電所再稼働に関する説明会に私も参加いたしましたが、北海道電力の説明を聞いて絶望的な気分になりました。北海道電力という企業には、原子力発電所を管理できるだけの十分な技術力も経験もなく、地震や活断層に関する十分な科学的知識もなく、放射能の健康に対する影響に関する十分な医学的知識もないと感じました。泊原子力発電所を稼働させることは、北海道電力という一企業がその利潤のために多くの道民を危険にさらす極めて無責任な行為です。これは企業倫理の観点から見て重大な問題だと思います。

原発で得られる電力の必要性は

市民にとって電力やエネルギーが必要であるとしても、それが原子力発電所から得られる電力である必要はありません。ドイツではすでに、すべての原子力発電所を止めるという決定がなされ、多くの原発が廃炉の手続きに入っています。世界的に見れば原子力発電関連産業はすでに時代遅れの産業です。世界がすでに風力や太陽光といった再生可能エネルギーにシフトしている状況の中で、電力の安定供給や温暖化対策の名の下に原子力発電所を使い続けることは、時代錯誤的で欺瞞的な行為だと言わざるをえません。

原発による電力のリスク

すでに北海道では多くの消費者が北海道電力以外の企業から電気を購入しています。そういった市民は北海道電力という企業から直接利益を受けることなく、一方的にリスクのみを課されています。リスクにさらされる側の人間に何ら利益のないままに、さらに本人の了承もないままリスクを課すことは、それがわずかのリスクであっても許されることではありません。そして泊原子力発電所の事故のリスクは決して小さいものではないのです。

仮に泊で事故が起これば、福島で起こったように北海道でも何万人、何十万人という人々が住まいを失うことになるでしょう。私も含めて札幌に住む人も札幌に居住できなくなる可能性があります。原子力発電所の事故はその周囲に住む人々の土地や家、つまり故郷や、職場や学校を奪い、家族や友人を引き裂き分断します。そこでは人々のささやかな幸福が容赦なく奪われていきます。それをお金で償うことはできません。その罪を問われた時に、その責めを引き受ける覚悟が北海道電力にあるのでしょうか。

またこのような被害は不可逆的な、とりかえしのつかないものです。不可逆的な被害をもたらす可能性があるような状態に他者を置くことは、それがわずかの可能性であっても道徳的な責任を問われる行為です。

倫理的に見ても

私の研究テーマの一つはカントという18世紀のドイツの哲学者の倫理学です。そのカントの倫理学の内容を一言で言うと、人間の尊厳を尊重し、決して他者を自らの利益のための単なる手段としてはならない、ということです。泊原子力発電所を稼働させることは、北海道電力という一企業が多くの道民を不当に高いリスクにさらし、利益のための手段とするということです。これは倫理的に見て決して許されることではありません。

札幌に在住する一人の市民として、泊原子力発電所を廃炉にすることを強く要求いたします。裁判長、私たちは福島第一原子力発電所の未曾有の事故を経験した21世紀の日本に生きています。原子力発電所を止めることは、人類の歴史の中でそのような私たちに課された使命です。どうか、そのことを深く心に受け止め、泊原発を1日も早く廃炉にする判決を下していただきたいと思います。