意見陳述

第18回口頭弁論 市川 和彦

原告:市川 和彦

高度経済成長に寄与

理工系の学生・院生を對象に教育・研究に35年間程たずさわった者です。
戦後十年余り経過後、日本経済が飛躍的に成長し高度成長時代(1955 – 1970年)を迎えました。1960年前後,大学卒業後企業で勤務する社員は海外に出向して仕事に励み、日本経済発展に貢献しました。その頃に、米・英両国で既に開発設計・実働運営されていた原子力発電炉が本国に輸入されました(1965 – 1985年)。原子炉は、核反応の際発生する強い熱エネルギーを利用して、電気エネルギーを供給します。
日本の経済成長発展に影響したと考えられます。

21世紀に入り日本は福島原発事故が起き、放射能物質・放射能廃棄物が住民の生活領域に入り込んできました。多くの住民の生活権をはく奪し、生存権を脅かした福島原発事故は、国民が今後、原子炉を用いることが可能なのかを問いかけています。日本中に建造された原子炉を今後もそのまま温存したい政府や電力会社は、福島原発事故はまれにみる巨大津波だけによるものと強調しています。

十分ではありませんが、情報を整理・分析した結果,地震は津波を誘引したのみならず、原発に直接被害をもたらしたと判断しました。陸・海に地殻変動性構造を持つ日本列島では、福島原発事故は起こるべくして起こった惨事と考えられます。5年経った今も、事故原因の解明と事故防止解決策が完成されていない現状では、今後の原子炉稼働は禁止と裁定されるべきです。

3つの観点から説明

一つ目は、メルトダウンが何故起きたか。冷却水供給のために海岸近辺にしか原発を建設できないと言う日本の立地条件は、日本固有の海底・内陸の地殻構造による地震と津波の自然災害を同時に受ける場所でもあります。米国スリーマイル島で起こったメルトダウンが人為的操作法の誤りから起きたのと決定的にちがっています。

福島のメルトダウンは、操作上の誤りではなくて、自然災害によって起こったのです。このメルトダウンを契機に水蒸気爆発や水素爆発が起こり、放射能物質や放射能廃棄物が管理外区域に大量に放出・放置され、住民の生活権を侵しました。

二つ目は、 原子炉設計・建設や制御システム設計は、原子工学専門の研究者・技術者などで行なわれましたが、その様な組織は合理性・汎用性・機能性の点で、深刻な問題があります。

日本国内での原発の設計・建設・稼働には、原子工学以外に材料工学・防災工学・地質/津波学・力学/流体学関連の物理学・放射能科学等の多数の部門が参入した新たな組織が原子炉設計・建設の最初の段階から設立されなければなりません。福島原発事故は「20世紀に設置された原子炉の日本での運用は危険です」と主張しています。原子工学専門の委員長及び同じ系統の分野の委員多勢で構成された場合,その原子力規制委員会の原発再稼働への対応は福島原発事故以後も大同小異でしょう。

三つ目は、「原発は住民の生活権そして生存権を侵さない」という原発運用にあたっての大原則をじゅん守できなかった。福島原発事故とはメルトダウン・冷却制御不能による原発炉の暴走化及び専門技術者による原発制御不可能化によるものです。

福島原発事故の検証なしで再稼働はありえない

2011年3月11日の福島原発事故からすでに5年が経過しました。先述の三つの観点から事故の重みを再認識して頂きたい。原子工学専門の方々からなる委員会では、原発がそのまま認可されることが容易に予測されます。21世紀に起こった福島原発事故は住民の生活権をはく奪し、生存権をおびやかしました。私は,資料分析から当事故は起こるべくして起こったと確信しました。日本の原発再稼働は、福島原発事故の徹底的な検証なしではありえません。

とりわけ北海道は、漁業・農業・酪農・畜産・自然を対象にした観光業によって存在感を保っています。日本を取り巻く海底の地殻変動が引き起こす地震や津波の自然災害(電力会社が言う想定外の原因)は原発事故の発生に繋がりかねません。原発にメルトダウンが起きれば放射性物質が拡散し、北海道に致命的な打撃を与えます。原発は十万年間管理しなければならない放射能汚染ゴミを残します。その処分地が北海道に指定される可能性もあります。それどころか他県にある廃棄物を北海道に運搬すべきとの考えも浮上しています。

これらはすべて北海道の住民の生活権・生存権に直接かかわります。裁判長におかれましては、北海道にこのような危険をもたらす泊原発を一日も早く廃炉にできるよう、脱原発日本の近未来を見据えて、北海道の司法による裁断を示して頂くことをお願いして私の意見陳述を終わらせて頂きます。