意見陳述

第25回口頭弁論 三浦 育夫

原告:三浦 育夫

6割が原発の再稼働に反対

原発は被曝労働なくしては動かず、トリチュウムなどを垂れ流す、汚くて安物の技術です。私は原発をそう評価していますし、市民の間でも、広く共有されて、世論調査のたびに6割を超える人達が、原発の再稼動に反対しているのが、それを示しています。

鉄腕アトムは明るい未来の象徴だった

私は、今は原発および原子力の利用を否定していますが、子どもの頃には憧れと期待を寄せて いました。
アトム・コバルト・ウラン。この名前を聞いて、手塚治虫氏の「鉄腕アトム」を思い浮かべる人は少なくないでしょう。アトムは「かわいく」「かしこく」「きれいで」「すなおな」原子力を、動力とするロボットです。人間の子供と一緒に、学校へ通います。父親、母親、兄コバルト、妹ウラン、アトムの一家は、人間に混じって家庭生活を送る、良き隣人でした。

また、7つの威力を備えたアトムは、明るい未来の象徴そのものでした。この頃、超スピードを武器に活躍するロボットや、放射線を浴びて超能力を得た正義の味方もいました。こうしたヒーロー達に導かれて、私は原子力に憧れ期待を寄せるようになりました。

そんな私の転機は、高校1年生の時でした。生物の教科書に放射線を使った品種改良の話が出ていました。生物を放射線に晒すと突然変異が起き、有用なものは1%程度出現。その中で使えそうなものが1%程度残る。更に子ども世代で、試験栽培に使われるものがその1%程度。「ええっ、機会を与えられる一つの検体の後ろには、百万のむくろが転がっているのか」。私の原子力との蜜月は終わりました。

原子力が、「かわいく」「かしこく」「きれいで」「すなおな」なのは嘘でした。

原子炉は巨大で禍々しい物で、アトムの胸に収まるかわいいものではありませんし、放射性物質は「5重の壁」で、封じ込めるしかなく、アトムの原子炉のように毒をかしこく消し去ることもできないのです。また、原子炉は排気も排水も垂れ流し、燃えカスは危険極まりないしろもので、きれいではありません。その上、すなおに働き続けることができない原子炉は、故障し点検も欠かせません。その度にたくさんの人が放射線に身を晒して、命を削らなければなりません。アトム一家とは隣人ではいられないのです。 

神話のほころび

トルーマン大統領は、核兵器の脅威は爆発の瞬間だけだと断言し、アイゼンハワー大統領は、核兵器とは全く別のものとして、原子力の平和利用を謳いあげました。広島や長崎での入市被爆や内部被爆の研究や報道は、占領軍に厳しく禁じられていました。手塚治虫も、そのような神話の世界の住人だったのでしょう。しかし、度重なる事故や徐々に明らかにされて来た放射線による被害の実態を前に、神話のほころびは隠しようがなくなりました。

ようやく神話と縁が切れるかと思われましたが、それでは困る人達がいるようで、その人たちは今、「原発の電気は安い」「日本の規制基準は世界一厳しいから、審査を通った原発は安全だ」と言いはやしています。

原発の電気が安くないのは、公表されている資料を使った研究で明らかです。安いと言っていた政府も、原発の電気が1KWhあたり11円近くだと言い始めました。これは火力発電と同じ水準ですが、まだごまかしがあります。稼働率80パーセントと言う非現実的な前提を改め、廃炉や廃棄物処理費用を適正に積み上げたら、幾らになるのでしょうか。

また、「世界一厳しい」日本の規制基準では、新設炉の標準装備コアキャッチャーも二重の格納容器も必要ありません。ケーブル類の難燃化も置き去りです。規制委員会の前委員長の「基準に適合しているかを審査するだけで、安全だとは言っていない」発言も記憶に新しいものです。このような根拠がない話を新たな神話にさせるわけにはいきません。

地下資源文明からの脱却

エネルギー資源の観点から、地球文明を三段階に分けることが論じられるようになりました。第一は、石炭・石油・ウランなど地下資源に頼る段階。第二は、太陽光・風力など惑星系の中心星のエネルギーに頼る段階です。第三段階は、宇宙に満ちるエネルギーを利用するのだそうですが、全く手は届いていません。
第一の段階の限界は、すでに明白で、今、私達は第二段階へ、進み入る時にいます。

 裁判所には、この歩みを進める判決を期待します。原子力と言う古い上着を脱ぎ捨てて、軽やかに進んで行きましょう。