意見陳述

第26回口頭弁論 樋口みな子

原告:樋口みな子

北海道胆振東部地震で明らかになった泊原発の大きな問題点

原告の樋口みな子です。私は泊原発の廃炉をめざす会で、201年12月から今年6月までの6年半、ハイロニュースの編集を担当しました。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故は忘れることが出来ません。遠く離れた北海道にも放射性物質が降り注ぎました。事故の数日後に子どもを出産しましたが、どれほど安全な食品に気を配って暮らしていたかを思い出します。原発の危険性を伝えたいという動機からミニコミ紙「銀河通信」を発行してちょうど30年になります。

9月6日未明に起きた最大震度7の北海道胆振東部地震で、北電は道内全域でブラックアウトを引き起こしました。自宅は江別ですが丸二日間停電になりました。交通機関はすっかりマヒし、スーパーもコンビニも閉店し、食料が手に入りませんでした。情報は乾電池で聴くラジオだけでした。信号のない真っ暗な道の怖さがどんなものか、初めて知りました。今回はそのブラックアウトでわかったことに絞って意見陳述します。

ブラックアウトで泊の電源は9時間半も喪失

北電の苫東厚真火力発電所は2号機(60万キロワット)と4号機(70万キロワット)が高温の水蒸気を運ぶ細長いボイラー管が縦揺れに耐えきれず損傷し、停止しました。稼働していた1号機(35万キロワット)も17分後に停止しました。このため北海道の全発電量の約半分が失われ、電力の需給バランスが崩れて前代未聞のブラックアウトが起きました。運転停止中の泊原発は外部電源が約9時間半も喪失し、その間、非常用電源が作動して使用済み燃料プールにある核燃料の冷却を続けました。もし非常用電源にトラブルが生じていたら、プールは沸騰し、使用済み核燃料は臨界に達したかもしれません。

この時、泊での震度はわずか2でした。泊で大地震が起きて泊原発が外部電力を喪失する事態は想定されていたかもしれませんが、泊から遠く離れた場所で起きた地震で全道的なブラックアウトが生じ、泊で外部電源が何時間も失われることは、全く想定されていませんでした。北電は、この裁判でも、泊原発はあらゆる危険に対策を講じているから安全、と主張してきましたが、こんなに遠く離れた地震で外部電源がいとも簡単に喪失してしまうことは、想定すらできていなかったのです。

今回、もし泊原発が再稼働していたらどうなったでしょうか?プールに入ってある程度冷やされている使用済み核燃料の冷却と、稼働中の原発の冷却とはまったく異なります。7年前、東日本大震災で、外部電源を全て消失した福島第一原発が次々にメルトダウンした大事故で、普通に暮らしていた福島の人々の日常は失われてしまいました。避難した人、避難しなかった人たちに日常が戻ったでしょうか?いまだに原発事故は収束してはいません。今回、ブラックアウトを体験して、原発は廃炉にしなければ、本当の安全、安心な社会は望めないと思いました。

北電の備えは万全だったのか

第二に、今回の事故で重大なことは、地震によって苫東厚真火力発電の2、4号機が停止してから1号機が停止するまでに17分も時間があったことです。北電は、道内最大の火力発電所が地震で急に停止することを想定していたでしょうか?多くの専門家が指摘していますが、電力の需給バランスを調整するために、緊急に一部の電力を切ってバランスをとることで、周波数を乱さないようにすれば、ブラックアウトを回避できたのではないでしょうか。北電は、いざというときの備えが万全であったとは言えません。詳しくは、政府が設置した第三者委員会で明らかにされるでしょうが、北電がこのような事態を想定すらしていなかったので、速やかな対応が出来ず、ブラックアウトを引き起こしてしまったといえるのではないでしょうか。今回の出来事は、そもそも北電には、すべてに対して想定が甘く、外部電源喪失が続けばメルトダウンする原発を安全に管理する能力も、管理体制もなかったのだ、という事実を、はからずも全国の人々に明らかにしたと思います。

専門家も想定していない場所で地震が起きた

第三に、今回の地震は、専門家も想定していなかった場所で起きたということです。通常は直下型の地震は10km程度の浅い場所で起きるとされていたのに、今回は37kmの深いところで起き、山崩れのようなすごい被害をもたらしました。地震と関連した可能性のある石狩低地帯東縁断層は、東洋大の渡辺満久教授が指摘している泊の沖合の海底断層とよく似ていて、東に傾斜する逆断層です。ですから、もし、泊で、同じように東に傾いた断層の深いところで今回のような直下型地震が起きれば、それはまさに泊原発の直下にもなり、小刻みの縦揺れが、配管だらけの原発に大きな被害を与えるでしょう。

最後に、29年前「北電への手紙」という本に寄稿させていただいた文章の一部を紹介します。「もし泊で事故が起きたら、一番最初に被害を受けるのは幼い子どもたちです。ひとたび事故があれば海を汚し、空気を汚し、大地を汚し、食べ物を通してわが子の体にも蓄積されていくでしょう。~略~ 泊村にも行ってみました。とってもきれいな海岸線で、なぜここに原発がと胸を衝かれました。ふと水俣を思いました。不知火海はとても美しい、魚も良くとれる海だそうです。その海に、チッソ工場から有機水銀が流されたのです。それは目には見えないし、臭いもないし(まるで原発と同じですね)誰も気づかなかったのです(チッソ以外は)。そうして、汚染された魚を食べつづけた人びとが次々と水俣病になったのです。胎児性水俣病まで生み出しました。~略~泊原発を止めてください。もしあなたが家族を愛しているのならば」

今回、泊原発が稼働していたら大変な事故になっていたかもしれません。危険な泊原発は一日も早く廃炉にと訴えます。裁判長には公正な判断をお願いします。