意見陳述

第27回口頭弁論 尾関 敏明

原告:尾関 敏明

原発は命の尊厳に関わる倫理的な問題

原告の尾関敏明と申します。
私は、2011年3月まで、東京の電機メーカーに勤務し、原子力発電の「安全神話」にどっぷりと漬かりつつも同僚の技術者たちと共に「安全な機器を製造する」為に努力を惜しまなかったと自負しております。

しかし、3月11日の震度7に達する地震と、巨大津波の到来により、東京電力福島第一原子力発電所は、外部電源が喪失し原子炉の冷却機能を失い、1、3、4号機が次々と水素爆発しました。過酷度レベル7とされた事故により広範な地域が放射性物質により汚染され、多くの住民が長年住み慣れた豊かな先祖伝来の地から避難しなければなりませんでした。人々のコミュニティは分断され、経済力のない人々は、避難先で新たな生活を再建、復興する力もないままに寂しい生活を余儀なくされています。酪農の再建の望みを失い「原発がなかったら・・」と書き残して自死された方もおられます。

事故発生から8年の歳月が流れようとしていますが、3つの原子炉は未だメルトダウンした燃料棒の取り出しも出来ず、廃炉作業の工程は進んでいません。汚染された地下水は、タンクに溜まり続けています。現場の作業員は毎日、不自由な防護服を着てフイルムバッジをつけ被曝作業を余儀なくされています。原発事故は他のどんな発電所よりも重大な被害をもたらします。そしてそのような事故を完全に防止する事は出来ないのです。政府は、事故発生直後、福島県に緊急事態声明を発表しました。そして現在もその声明は解除されていません。それにもかかわらず、政府は被災地への帰還政策を進めています。

原発は、政治や経済、技術の問題ではなく、生けるもの全てのいのちの尊厳にかかわる倫理的課題としてとらえる必要があります。私は以下の6つの観点から、泊原発の再稼働に反対いたします。

再稼働に反対する6つの理由

第1 事故発生時、近隣住民の避難の為の移動手段、経路を確保出来ない可能性があり、特に地震や噴火などの自然災害が先行する場合には、事故が発生した時点で既に避難経路が確保出来ない可能性があります。

第2 原発は事故でなくても運転中に排出される微量の放射性物質の拡散により近隣住民の被曝による健康被害が生じ、がん死亡率は他の地域に比べて高くなる事が既に確認されております。

第3 原発の燃料となるウラン鉱石の採掘から使用済核燃料の処分など全ての過程で被曝があり、電気を使用する人々との間に差別や分断を生じます。

第4 原発の使用済核燃料の高レベル放射性廃棄物は十万年の間、厳重に管理しなければなりません。最も大きな課題である安全管理を後の世代の人々に委ねざるを得ないのです。

第5 泊原発は北海道の西端に立地しており、事故が起れば北海道全域が放射能で汚染される可能性があります。日本の食糧庫と言われている北海道は何としても放射能汚染から守らなければなりません。昨年12月にも泊原発の非常電源装置の不具合が見つかりました。この状態で外部電源が遮断される災害や事故が発生したら、福島第1原発と同様の事故が発生した可能性もあるのです。

更に、昨年9月に発生した北海道全域停電に関する第3者検証委員会は、泊原発がフル稼働中に一斉停止した場合、再びブラックアウトに至る可能性が高いと指摘しています。

第6 泊原発の西15㎞の沖合には、長さ60~70㎞の活断層があることを北大名誉教授の小野有五さんらが指摘しています。これは逆断層といわれ、この地域で直下型地震が起れば、泊原発は福島同様の致命的な災害をもたらす可能性があります。

以上6点のどれ一つをとっても、私たちの命に関わる重大な問題が生じる泊原発の再稼働はすべきではありません。

クリーンな電源開発を

最後に、北海道は自然エネルギーの宝庫とも言われています。泊原発を再稼働しなくてもクリーンな電源開発によって、電気は十分賄われるのです。分散型電源の増加や電源ネットワークの見直しは、地域経済の安定と安全で豊かな北海道をもたらすでしょう。同時にこれらは今後不可欠となる廃炉に必要なエネルギーの資源ともなるでしょう。

以上により、北電は泊原発の再稼働ではなく早期に廃炉を決定し、クリーンな再生可能エネルギーを活用した事業経営へと転換すべきです。裁判長の公正なご判断をお願い致します。