2012年5月28日
14:00~14:30 札幌地方裁判所805号法廷
はじめに
意見陳述者の小野有五と申します。陳述者は原告の一人でもありますが、大学・大学院では地質学・自然地理学を学び、長年、地形学の研究に従事してきました。変動地形学の研究にも携わったことがあり、活断層研究会に参加、1980年の『日本の活断層 ――分布と資料』では、北海道の活断層の一部の執筆を担当しました。
『訴状』第8章(pp.59-84)に述べた「泊原発における地震の危険性」について、パワーポイントの画像を映写しながら、『訴状』の内容をわかりやすく説明することが本陳述の目的です。一部、訴状に載せていない図や写真がありますが、すべて、訴状の内容をわかりやすく説明するためのものです。訴状の内容を超えるものについては、別途、準備書面で提示したいと考えております。では始めさせていただきます。
1:泊原発の危険性
泊原発は、沖合の海底にある活断層による地震や、それによって生じ得る巨大津波の危険にさらされていることを説明させていただきたいと思います。泊原発のある地域で大地震がくりかえし起きたことは、海岸段丘などの地形によって示されることも、あわせて述べたいと思います。これらはすべて、「変動地形学」と呼ばれる地理学、自然科学の一分野の最新の知見にもとづいております。
2:プレートの運動とマントル対流
地球の表面は、プレートとよばれる岩盤からなっています。地球を卵にたとえますと、ちょうどカラ(殻)にあたる部分であり、その一部は、「地殻」ともよばれます。その下には、卵の白身にあたる「マントル」があります。卵の黄身にあたる中心部の「コア」の一部や「プレート」は固体ですが、マントルは、熱くて、ゆっくりと流動しています。熱せられた物質は湧きあがって左右に分かれ、流動したのち、ふたたび沈んでいきます。この熱による流れ、すなわち熱対流を「マントル対流」といいます。図は、太平洋周辺を示したものですが、太平洋プレートは、このマントルの流れにのせられて東西にゆっくり移動し、南米と日本付近で、マントルへ向かって沈み込んでいます。
3:主要な地震はプレート境界で起きている
世界地図に主な地震の震源を入れると、太平洋を囲む帯状の地域と、ヒマラヤから地中海周辺に向う地域に集中して分布することがわかります。狭く帯状に分布するので、これを「変動帯」とよびます。変動帯で大きな地震が発生するのは、そこがプレートとプレートの境目、すなわち「プレート境界」になっているからです。世界のプレート境界は、2つのプレートがぶつかっているところがほとんどです。しかし日本では、なんと4つのプレートがぶつかりあっています。
4:世界の原発の大部分は安定大陸の上にある
これは、主な地震の震源を示す地図の上に、世界中の原発の位置を示した地震学者、石橋克彦さんのつくられた図です。これを見ると、世界の原発のほとんどは、変動帯ではない安定した部分、これは「安定大陸」とよばれる地域だけに建設されていることがわかります。これに対して、日本の原発は、まさにすべてが変動帯の上につくられているのです。
5:日本列島は4つのプレートの境界にある
日本列島の東側や南側には深い海溝があります。そこがプレート境界になっているのです。東からは太平洋プレート、南からはフィリピン海プレート、西からはユーラシア・プレート、北からは北米プレートが移動してぶつかりあっており、日本列島は、地球上でも、もっとも活動的なプレート境界に位置しているのです。矢印は、プレートの運動方向を、その長さは、運動の速度を示しています。太平洋プレートの動きがもっとも速いのですが、それでも1年に8センチメートルていどです。
6:太平洋プレートの沈みこみと巨大地震
日本列島では、日本海溝付近で太平洋プレートが沈み込んでいます。海のプレートのほうが陸のプレートより重いので、海のプレートが沈み込むのです。2つのプレートの境界では地震が起きます。星印で示す震源の深さは、太平洋プレートの沈みこみに従ってしだいに深くなります。またマントルの一部が上昇したりして、地殻をつくる岩石が部分的にとけるとマグマが発生し、それが地上まで噴出すると火山活動になります。日本列島もつねに押されているので、そのストレスによって地震が起きることがあります。これが直下型地震です。規模はさほど大きくありませんが、直下なので、被害は大きくなります。阪神淡路大震災を起こしたのも典型的な直下型地震でした。しかし、3.11のような巨大地震は必ずプレート境界で起きます。
7:日本の原発の分布とプレート境界
3.11の巨大地震は、日本海溝に沿う帯状の部分の活断層が500kmにわたって動いた結果、生じました。断層の長さと、発生する地震の強さはほぼ比例します。500kmの断層が動けば、M9クラスの巨大地震になる、というわけです。
日本の原発は、図に示すように15か所ありますが、つねに冷却しなければならないために、すべて海岸にあります。原発は、必然的にプレート境界に近いところにある、ということです。なかでも静岡県の浜岡原発は、4つのプレート境界に近い場所にあるわけで、世界でもっとも危険な原発といえます。菅 直人前総理は、辞任前に浜岡原発だけを止めましたが、永久に止めるという意味なら、これはきわめて賢明な処置といえるでしょう。しかし、ほかの原発は安全かといえば、けっしてそうではありません。
図では、太平洋側のプレート境界が実線で描かれているのに、泊原発のある日本海側のプレート境界は、点線で描かれています。日本海側にはプレート境界がない、というのが1970年代の常識でした。ですから、太平洋側のプレート境界と日本海側のプレート境界がこのように区別されて表現されることがありますし、それには、それなりの理由があるのです。