佐藤英行・意見陳述内容

変わっていく古里を見つづけた30年
(原告・佐藤英行)

原発建設とともに衰退した地場産業の漁業

 「共和・泊」原子力発電所として北海道電力が原発建設を発表して以来、泊原発建設“絶対反対”決議を続けてきた岩内郡漁業協同組合に対し、北海道電力の攻撃が強まり、賛成派の要請で、漁協の最高決議機関である総代会が1981年8月15日開催された。この日の臨時総代会は乱闘になり流会、再度9月28日に開催された臨時総代会で泊原発建設「絶対反対」の看板を下ろし「条件付き賛成」と路線を変更した。12月に第1次公開ヒアリング、翌1982年3月には電源開発調整審議会において承認され、補償金・産業振興資金も妥結して行った。
 1982年の岩内町はまだ基幹産業が漁業と対外的に言える状況だった。しかし原発建設、そして初臨界、試運転、営業運転と経過するにつれて衰退していった。2010年の漁獲量は1982年のわずか16%、漁獲高は15%、漁船数は25%、正組合員数も14%にまでに減少した。
 スケソウダラは(すけそ)と書き、海底の深いところにいる魚ということで魚へんに底をあてたとされている。3〜5℃の冷たい水温が産卵適温である。泊原発1号機の初臨界が1988年、2号機が1990年、そして3号機が2010年であり、その間、取水より7℃高い温度の海水を、1号機、2号機それぞれ40t/秒、3号機66t/秒垂れ流していった。その総量は琵琶湖の水量275億トンの1・7倍にも達し、1、2、3号機の営業運転の翌年に、いずれも大きな漁獲量の減少が見られる。ほかの現象の影響もあるかもしれないが、温排水が魚類の回遊や移動に影響を及ぼす可能性は否定できない。資源量の減少もあって、スケソウダラの漁獲量は激減して行った。漁協の組合員も漁業を廃業し、また漁業関連で働いていたひとたちも、原発関連下請け企業にいくようになっていった。

原発産業が地元の人間を取り込んでいった

 一方、岩内町の海岸の南隣に位置する、寿都町、島牧村は漁業を基幹産業と位置付け、栽培漁業を推進するなど、地場産業の育成に努めており、漁獲量は2010年/1982年で寿都町は2・3倍、島牧村は1・5倍に達している。原発産業が自然環境を破壊し、地場産業の漁業および関連産業を衰退させ、そして地元の人間を原発に取り込み、ものを言えなくさせていった構造がよくわかる。地元の資源を確認し、それを生かしていき、産業として生業させていく力、いわゆる「地元力」を原発は殺いでいったのである。

参考「泊発電所における地元活用について—北海道電力資料より」

 放射線治療の専門家で3月まで北海道がんセンター院長であった西尾正道氏は、北海道の標準化死亡比のデータで泊原発がある泊村のがん死亡率が高いことを指摘している。北海道知事が主務官庁となっている北海道健康づくり財団が報告した道内のがん死亡率SMR(標準化死亡比)は、泊村のがん死亡率は断トツに高く、2番目が隣町の岩内町となっている。泊村は10万人当たり2450人であり中間値の1120人の2倍以上のがん死亡者数となっている。泊原発の現地と言われる地域でがんでの死亡率が異常に高いのである。異常ともいえる泊村のがん死亡率の高さが泊原発によるものであることの因果関係を証明することは大変難しいが、事故が起こらなくても原発から恒常的に放射性物質は排出されており、また原発で働く労働者も被曝は免れないのである。定期点検時ともなると被曝する割合は高くなる。

原発は雇用・健康・未来を脅かしている

 福島第一原発事故による放射能の影響がこれから子どもたちを中心に現れることが危惧される。子どもたちの未来を脅かしている。これまで地元は、危険な原発を目の前にして生活している不安と、廃炉による雇用の場の喪失による生活の不安の2つをかかえてきた。この不安の元凶は原発である。
 「原発産業は地元経済に雇用の場を拡大してきた、スケソウダラの漁獲量の減少は地球温暖化の影響で温排水を原因とする確証はない、泊村と岩内町のがん死亡率が高いのは同じ現地の共和町、神恵内村は高くないので原発が原因とはいえない」北海道電力はこのように主張するかもしれない。しかし、“確かな証拠がない”ことを“影響がない”ことにすり替えてきた歴史がフクシマ事故を引き起こしたのである。
 ひとたび事故が起きれば、そこに存在している全ての生命、環境を破壊して行くこのことをフクシマは改めて私たちに突きつけてきた。使用済核燃料、放射性廃棄物の処理方法もないなか、これ以上、未来に負の遺産を背負わせてはならない。原発によって、自然を対象とした生命の生業=農業・漁業を放射能で汚染させてはならない。私たちには、未来を保障する責任がある。すべての原発を廃炉にすべきである。
 昨年5月から3号機が定期点検に入りすべての泊原発が運転を停止した。そして、温排水が排出されていない現在、今年のスケソウダラ漁は昨年同期と比較して1・5倍の水揚量となっているのである。