8:日本海側のプレート境界についての諸説の変遷
1983年、日本海中部地震が発生したことで、初めて、日本海に、ユーラシア・プレートと北米プレートの境界があるのではないか、という説が、中村一明さん、小林洋二さんによって、独立に唱えられました。これが図bです。それまでは、図aのようにプレート境界は日高山脈の西側にあると言われていたのです。その後、瀬野徹三さんほかによって、北米プレートの一部はオホーツク・プレートとしてさらに区分されたり(図c)、さらに一部が東北日本マイクロ・プレートとして細分されたりもしています(図d)が、日本海にプレート境界があるという点は変わっていません。右下の図は、1998年に出されたWeiさんと瀬野さんによって、プレートの動きも含めて描かれた包括的な図です。ここではユーラシア・プレートの一部が「アムール・プレート」として区分されています。私たちが2003年に編集・執筆した『北海道の地形』という北海道の地形についての最初の総合的な教科書(右上)でも、これらの説を受けて、日本海にプレート境界があるとしました。
9:日本海側のプレート境界は東西圧縮帯
日本海にプレート境界があることは、1983年の日本海中部地震の10年後に北海道南西沖地震が起き、さらにその2年後、北サハリンでネフチェゴルスク地震が起きたことで決定的になりました。1940年の積丹沖地震や、1971年のモネロン島付近地震も含めて、すべての大きな地震が、右図のようにほぼ一直線のうえで起きていることが明らかになったからです。しかしよく見ると、これは一直線ではありません。日本海溝のような1本の深い海溝がある太平洋側とは異なり、日本海側のプレート境界は、左の図のように、海嶺とよばれる海底の山脈と、トラフや海盆とよばれる深い凹地が連続するきわめて複雑な地形をしています。これらの海嶺と凹地は、東西から強い力で圧縮を受けた結果、地層がずり上がる逆断層や、折れ曲がるしゅう曲ができた結果、つくられたものなのです。日本海側のプレート境界は東西圧縮帯といえるでしょう。
10:太平洋側と日本海側のプレート境界の全体図
北大の地震火山研究観測センターがつくった図が、以上のことをわかりやすく表現しているので、示しました。日本海側のプレートは、瀬野さんほかの「アムール・プレート」としています。日本海側のプレート境界が、基本的にはアムール・プレートの沈みこみとしてとらえられていることがわかります。
11:日本海側のプレート境界についての解釈
平 朝彦さん(2002)による解釈を説明します。平さんは、日本海側のプレート境界では、ユーラシア(アムール)・プレートが、北海道のある北米プレートの下にゆるやかに沈みこんでおり、その境界にある奥尻海嶺の周辺で、東西圧縮による逆断層が起きている、と解釈しています。星印は南西沖地震の震源で、まさにプレート境界で起きた地震であることがわかります。筒型が泊原発の位置ですから、泊原発がいかにプレート境界に近いかがわかるでしょう。あとでふれますが、奥尻海嶺そのものは、日本海と同じ海洋の地殻でできていること、その両側で、傾斜が反対になる逆断層が発生することも、この図は示しています。
12:北海道での地震の震央分布
北海道の太平洋側と日本海側の地震の震央・震源の水平的・垂直的な分布図です。太平洋プレートが沈み込んでいる太平洋側では、東北地方と同様、地震の震源が、内陸に向かってどんどん深くなります。しかし日本海側では深い地震はなく、すべて50kmより浅いのです。これは、日本海側では、プレートの沈みこみが始まったばかりである、という説の根拠にもなっています。日本海側の地震は、北海道南西沖地震の余震を示したものなのですが、その分布のようすは、平さんの模式図にあった、奥尻海嶺をはさむ2つの逆断層とよく一致しているようにも見えます。
13:日本海側プレート境界の複雑な地殻変動(テクトニクス)
岡田博有(2003)さんによる図では、奥尻海嶺の北部(測線J7)と、南部(測線J12)で、地下の構造がちがうことが示されています。北部では、ユーラシア・プレートが奥尻海嶺の下に沈み込んでいるのですが、南部では逆に、ユーラシア・プレートが奥尻海嶺にのし上げ、奥尻海嶺そのものをつくっています。中村さん、小林さんは、日本海側は、プレートの沈みこみが始まったばかりの新生プレート境界である、と唱えました。日本海側では、ユーラシア・プレートが北米プレートの下に沈みこもうとしているものの、まだその運動は始まったばかりで、ときにはユーラシア・プレートが北米プレートの上にのし上がってしまうような運動も見られ、一筋縄ではいかない、というのが、現状なのです。逆にいえば、古くからプレートが沈み込んでいる太平洋側は、だいたいの予測がつけやすいけれども、沈みこみが始まったばかりの日本海側は、いったい何が起きるかわからない、ということで、防災面からみると、予測ができないというリスクがさらに大きい、ということになります。
ここまでが、訴状第8章の基礎的な説明です。