小野有五・意見陳述内容

14:北電と活断層研究会による活断層分布の比較

 ここからが、訴状でもっとも強く批判した、北電による活断層の認定の甘さに対する問題提起の部分になります。北電は、保安院からさまざまな指摘を受けると、活断層を新たに追加して認定することがありますので、新しい資料のほうがいいと思い、北電が2011年12月27日に原子力保安院に提出した最新の図を左に示します。この最新の図でも、今から約20年前の1991年に、活断層研究会によって出版された『新編 日本の活断層』にのせられている活断層のいくつかが、認定されないままになっています。(パワーポイントでは黄色の)破線で示す活断層がそれです。とくに、周辺ではかなりの活断層を認めているにも関わらず、泊原発から30km圏内に入ると活断層が急にまったくなくなるという不自然さが顕著です。
小野有五図14

15:電力会社は変動地形学の研究成果を無視

 なぜ北電による認定では、ぬけている活断層が多いのでしょうか。
 以下に、その理由を説明したいと思います。訴状で引用した論文は、2007年に「科学」という雑誌にのった鈴木康弘さん、中田高さん、渡辺満久さんという日本を代表する変動地形学の専門家3人による論文です。鈴木さんほかは、東電の柏崎刈羽原発が2007年に起きたマグニチュードわずか6.8の中越沖地震で、想定をはるかに超えた地震動に見舞われ損傷したことを重くみて、その原因を、活断層を無視した原発の立地にあると指摘しています。この論文で、鈴木さんたちが「活断層認定の基本とは」と述べていることをわかりやすく説明するために、共著者の渡辺満久さんが、札幌で講演されたときに使われた2枚のパワーポイントをお借りして、お見せしたいと思います。
小野有五図15

16 活断層認定の基本は変動地形学的な知見

 そもそも「断層」とは、地質学の用語であり、地殻の変動によって、ひとつながりの地層が、ある面を境に切れることを意味します。地質学的にいえば、地層が切れている、ということが、もっとも重要なのです。しかし、変動地形学では、こうした断層の運動によって、地形にどんな変化がもたらされるか、ということに着目します。
 図は、まだあまり固まっていない地層が、ちょうどふとんのようにのっている状態を示しています。地下の固い岩盤が断層でずれると、地下では、断層面を境に、上側の岩盤がのし上がる動きをしています。これを逆断層といいます。この逆断層によって、地下の地層や岩盤は切れているわけです。しかし、ふとんのようにのった地層は、やわらかいので切れず、ただ地層が変形して、たわむだけです。ですから、上にのる地層だけを見ていると、その部分の地層は切れていないわけですから、これは断層ではない、と判断してしまうことになるのです。けれども、上にのった地層へ明らかに変形していますし、のし上がった側が高くなった結果、地表にはゆるい崖ができます。変動地形学では、このような崖を「撓曲崖(とうきょくがい)」と呼んで、こうした地形があれば、地下には断層がある可能性が高いと考えるのです。
小野有五図16

17:海底の音波探査データを変動地形学で解釈する

 海底の活断層は、海底に向けて船から音波を出し、その反射によって地下にある地層や断層を調べることで確認します。これを「音波探査」といいます。音波探査では、海底の地層は、図のように黒い縞模様で表されます。この図でも、海底の表層の地層はどこも切れていません。ですから、たんに地質学的にみると、ここには活断層はない、と見過ごされてしまうわけです。しかし、よく見ると、海底に近い、浅いところの地層ほど水平で、深くなるにつれて地層が曲がっています。これを変動地形学では、「変位の累積」といいます。つまり、地層は海底で水平にたまったはずなのに、時代たつにつれて、曲がり方、たわみ方が強くなっているのです。ということは、地層が水平にたまった後で、それを曲げたりたわませたりする力がくりかえし働いていることになります。その力は何かといえば、深いところにある断層しかありません。地下では断層によって破線で示した地層がとぎれているように見えます。そして、ちょうどそのあたりで、上のほうの地層にたわみが起こっているのです。ですから、ここに逆断層があると推定できるのです。
小野有五図17

18:海底の活断層の認定

 図は、私自身も執筆に加わった1980年に最初に出た『日本の活断層分布 ――分布と資料』にのせられている図です。つまり、すでに1980年の時点で、変動地形学からいえば、「海底の表層部では地層が切れていなくても、その下には活断層が存在する場合がこんなにある」という認定基準をちゃんと出していたわけです。図でいえば、地層が切れているのは(1)だけで、あとは、すべて、表層の地層がたわんだり、表層の地層がのった堅い岩盤がずれたりしているだけです。日本中の変動地形学者が集まって、何度も討議を重ねてつくったこうした基準が、電力会社や保安院によってまったく無視されてきたことこそが、大きな問題なのです。
小野有五図18

19:東電による柏崎刈羽原発での活断層認定への批判

 左の図は、柏崎刈羽原発周辺の活断層の平面図、右と下はその南北の断面図を示したものです。東電は、パワーポイント画像では赤く塗った断層(左の図で、円筒マークで示す原発のすぐ北側の中央部分だけ)しか、活断層と認めていません。しかし変動地形学の立場からすれば、たとえば、この赤く塗った活断層は、そのまま青く塗った部分(その左右側)まで伸びていると考えるのが常識です。まず、ここでは、密な等深線で示される、きわめて顕著な急崖がずっと続いています。このような急な崖が、中央部だけの活断層でできることはありえません。崖が左右にずっと続いていれば、活断層もそこまで続いていると考えるのが普通です。同様に、パワーポイント画像では緑や黄色に塗った活断層(図の左上や右上にのびる断層)も、顕著な急崖や、音波探査のデータから、確実に認定できます。ところで、中越沖地震は、左図の爆発マークで示した地点の地下で起こりました。活断層が引かれている場所とちがうではないか、と思われた方もおられるかもしれません。でも、下の断面図(No.4)を見ていただければわかるように、(赤で描いた)中央部の活断層は、柏崎刈羽原発の方に向って傾斜しています。つまり、中越沖地震は、柏崎刈羽原発のほうに向って傾いていくこの断層面の上で、地下の岩盤がずれて起きたのです。
小野有五図19